研究概要 |
1.アポトーシスの細胞内シグナル伝達機序と膵癌治療:前年度の研究結果から,膵癌細胞の放射線誘導アポトーシスにBcl-2関連遺伝子が大きく関与したので,Bcl-X遺伝子のアンチセンス・オリゴヌクレオチドとトロージャンペプチドの共有結合体を作成し,Bcl-XLの遺伝子発現の異なる膵癌細胞株と放射線抵抗性Bcl-XL異常発現株において,アンチセンスの効果を検討した.その結果,放射線誘導下のアポトーシス増強作用と細胞増殖抑制効果,及び塩基配列特異的mRNA翻訳阻害が認められた.またFas受容体のデコイであるDcR3の膵癌における発現を検討したところ,約50%の症例で遺伝子発現が亢進し,細胞学的実験でmFasLによる細胞死とDcR3発現が逆相関することを明らかにした. 2.膵癌遺伝子異常に立脚した新規抗癌剤開発:前年度の研究結果から,膵癌の遺伝子異常が最も高頻度である癌抑制遺伝子p16INK4の活性中心ペプチドが膵癌増殖抑制作用を持つことを明らかにしたので,マウスでの治療実験を行った.その結果,皮下腫瘍モデルにおける著明な抗腫瘍効果と,腹膜播種モデルにおける有意の延命効果が認められた.薬剤による有害事象は観察されず,膵癌遺伝子異常に立脚した新規抗癌剤を癌治療に応用することの有用性が示唆された. 3.tumor dormancyをめざした膵癌治療法:前年度の研究結果から,インテグリンαvβ3の選択的拮抗阻害剤であるcyclic RGDペプチドを改良し,Eアルケン化により新しいペプチド系薬剤を創製したので,今年度はマウスでの治療実験を行った.その結果,angiogenic switchが入る以前の腫瘍が小さい時期,すなわち腫瘍増殖が腫瘍血管新生に依存しない時期からRGDペプチドを投与することにより,tumor dormancyが誘導さることを見いだした.
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