研究概要 |
【目的】血液中やリンパ節中の微量癌細胞が臨床病理学的因子や予後に及ぼす影響を調べ、術中診断や術式の選択、治療効果判定などの臨床応用が可能かどうかを明らかにする。【研究成果】(A)血液について;1)再発予測:大腸癌手術例の術中原発巣還流血中より微量癌細胞をMACS(磁気分離装置)を用い分離することで検出感度が上昇した。K-ras変異を認めた7例のうち、2例(29%)は根治手術後8ヶ月目、15ヶ月目にそれぞれ再発を認めた。一方K-ras変異を認めなかった17例のうち再発は1例(6%)のみであった。2)効果判定および治療への応用:進行再発癌例で化学療法により、末梢血中のCEAmRNAの消失が3例(3/10,30%)例に認められ効果判定に利用できた。また担癌患者の自己保存血中の微量癌細胞の有無を調べることにより、癌手術症例における自己血輸血の安全性が確認できた。(B)リンパ節について;1)再発予測:従来の病理組織学的診断で陰性かつ分子生物学的診断で微小転移陽性であった28例(28/64,44%)のうち3例(胃癌1例、大腸癌1例、食道癌1例)に根治手術後再発を認めた。2)効果判定および治療への応用:乳癌ではセンチネルリンパ節の転移の有無により腋窩リンパ節郭清が省略できる可能性がある。RT-PCR法を用いた診断にて微量癌細胞の検出精度が上昇した。さらに迅速PCR法を用いたリンパ節微小転移の術中診断の開発を試み、検体摘出後から約1時間で判定可能であった。【総括】術中原発巣還流血中およびリンパ節の微量癌細胞の存在は再発の予知因子となりえる。また、術中の分子生物学的迅速診断が可能になったことから縮小手術の選択や、リンパ節郭清の範囲の選択にも応用できると考えられる。さらに外科治療、化学療法後の効果判定にも応用できることから、今後は微量癌細胞の存在診断に基づいた治療戦略が展開できると思われた。
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