研究課題
基盤研究(B)
今回我々は、膵癌が他の癌に比べて神経浸潤の頻度が高い理由について、以下のような仮説を立て、in vitro、in vivoでの基礎的検討を行った.【仮説】膵臓の周囲に存在する腹腔神経叢から分泌されるある種の神経栄養因子により膵癌細胞は浸潤誘導刺激を受け、それに導かれるように癌進展、浸潤が起こる.それに対し以下の結果が得られた.【結果】(1)膵癌細胞は神経系細胞と明らかに親和性高く、神経系細胞から分泌される神経栄養因子GDNFによりその浸潤能が増加する.このGDNF分泌はヒトの腹腔神経叢からも分泌されていた.(2)神経栄養因子GDNFよる膵癌細胞の刺激は、膵癌細胞膜上にあるRETレセプターを介して行われ、そのシグナルはチロシンのリン酸化という形で細胞内に伝わり、FAKへとシグナルが伝わる.(3)GDNFにより見られた膵癌細胞の浸潤能増加は、GDNFファミリーのNeurturinでも同様な結果が得られた.(4)膵癌の浸潤転移にサイトカインIL-1aが大きく関与している.(5)IL-1αはIL-1RIを介してインテグリンα_6β_1の発現を増強し、lamininへの接着能を増強させることにより、肝転移に大きく関与していることが示唆された(6)膵癌細胞は糖鎖抗原を介して、血管内皮細胞に誘導されたE-セレクチンと接着し、そこから肝転移が発生する.以上の結果より最初の仮説の正当性は証明された.【考察】この結果は膵癌の好神経進展を考える上で、新しい重要な考え方であり、膵癌の神経浸潤の機序解明に大きな進展をもたらした.今後はこの浸潤メカニズムの制御を行うことにより、新しい癌治療戦略へと発展する可能性が考えられた.
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