研究概要 |
喀痰細胞診や気管支鏡下擦過細胞診は,早期肺癌の発見に有用ではあるが,形態的変化を捉える検査であり,遺伝子レベルですでに起こっているmutant DNAを有する細胞も,形態的変化を伴わなければ検出することは不可能である.また,臨床標本では非常に多くの正常細胞中に存在する僅かな異常細胞を検出することが必要とされる.このような場合には,通常の遺伝子変異の検出法では不可能であり,はるかに感度の高い検出法が必要とされる.Enriched PCR法は,PCR-RFLP法をもとにして開発された技術で,正常DNA105〜106個中の1個のmutant DNAを検出することが期待されている手法である.その原理は,制限酵素切断部位を導入したプライマーを用いたPCR(1回目)により,正常および異常のDNAの両者を増幅した上で,正常のDNA(PCR産物)のみを制限酵素により切断し,残存した異常DNAのみを2回目のPCRで増幅することによって,異常DNAのみを特異的に増幅しようとするものである.この方法の一番の問題はTaqDNAポリメラーゼの読み違えである.そこで,PCR反応にTaq以外の3′to5′proofreading exonuclease activityを持つDNAポリメラーゼを用いることを試みた.まず,培養細胞を材料とし,種々のDNAポリメラーゼを用いて,K-ras遺伝子の点突然変異に関し,Enriched PCR法の至適条件を検討した.次に,切除標本のDNAでのPCRの条件の確立を行い,さらに,細胞診検体における条件の確立を遂行中である.
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