研究概要 |
同種凍結保存胸部組織移植手術は、人工物による再建が不可能な感染疾患に対する再建術に不可欠であり、国内でも臨床応用が増加している。プログラムフリーザーを使用して緩徐に凍結・保存し、解凍後移植するが、新鮮同種組織と比べ耐久性に優れ、同種移植に伴う拒絶反応が軽微である。この機序を解明するため、培養細胞株を用いて凍結保存に伴う同種抗原性の変化を検討した。 ヒト気道上皮細胞株・血管内皮細胞株・線維芽細胞株について(1)Colorimetric MTT assayによる細胞viabilityの測定(2)Flow-cvtometryによる細胞表面HLA-classI,II,ICAM-1の発現度の変化、ならびにinterferon-gamma(IFN)による発現増強度の変化の測定(3)同種リンパ球混合培養反応(MLC)の変化の測定を行った。 いずれの細胞株も、凍結保存・解凍操作後のcell viability低下は軽度であり、BEAS-2B(気道上皮細胞)では急速凍結や冷蔵庫保存と比較して良好であった。HLA-classI,II,ICAM-1発現度については細胞株間で異なった。BEAS-2Bでは凍結後IFN刺激後HLA-class II発現増強度低下が認められたが、他の細胞では凍結保存後も有意差はなく、むしろ血管内皮細胞ではIFN刺激反応性が増強する傾向にあった。線維芽細胞はMLCは、凍結保存操作によって有意差は生じなかった。 ヒト気道上皮細胞・内皮細胞・線維芽細胞はそれぞれ凍結保存操作によって同種抗原性が種々に変化した。細胞viabilityが保存されれば組織matrixが良好に保たれる一方、同種抗原性も保持されるため移植後急性拒絶反応が増強する可能性がある。組織内にわずかに含まれる、抗原提示細胞であるdendritic cell等のviabilityの変化もさらに検討する必要があると考えられた。
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