研究概要 |
<目的> 前年度私たちはクロム肺癌においてMSIが高率(75%)に認められることを報告した。MSIの原因として、修復遺伝子の異常が考えられるので、今年度はクロム肺癌における修復遺伝子hMLH1,hMSH2の発現について検討した。 <材料・方法> クロム関連工業従事者に発生した肺癌28例、対照例としてクロムに暴露していない肺癌28例を選択した。ホルマリン固定パラフィン包埋材料より切片を作製し、脱パラフィンし、hMLH1hMSH2のモノクローナル抗体を用い、酵素抗体法(CSA法)にて免疫染色した。 <結果> hMLH1とhMSH2抗体の染色性の内部コントロールとして気管支上皮、線維芽細胞、リンパ球を用いた。腫瘍細胞の染色性では、80%以上染まるものを強陽性、30%>、80%<のものを中等度陽性、30%以下のものを弱陽性とした。クロムに暴露していない肺癌28例はhMLH1とhMSH2抗体とも全例強陽性であった。クロム肺癌はhMLH1抗体は強陽性14/28(50%)、中等度陽性10/28(36%)、弱陽性4/28(14%)であった。hMSH2抗体は強陽性20/28(71%)、中等度陽性6/28(21%)、弱陽性2/28(7%)であった。クロム肺癌症例はコントロール群と比べてhMLH1は約半数、hMSH2は約30%の蛋白発現の低下を認めた。 <考察> Hereditary nonpolyposis colorectal cancer(HNPCC)で認められるhMLH1とhMSH2遺伝子の異常はpromoter領域のmethylationやORFのshort deletionなど蛋白発現を低下させる異常である。クロム肺癌においても修復遺伝子の発現の低下を認めたことより修復遺伝子の異常を検討するため、promoter領域のmethylationやORFのmutationを検索する必要がある。
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