研究概要 |
我々はクロムに暴露したヒト肺癌について、3p,5q,9p,17p領域のloss of heterozygosity(LOH)及びMicrosatellite instability(MSI)について検討し、修復遺伝子hMLH1,hMSH2の発現についても検討した。クロム関連工業従事者に発生した発癌33症例40病変、対照例として、クロムに暴露していない肺癌29例を選択した。パラフィン包埋材料よりmicrodissection法にて腫瘍細胞と正常細胞のDNAを別々に抽出し、6つのmicrosatellite markerを用い、microsatellite gene instability(MSI)を検索した。6つのmicrosatellite marker中2つ以上のmicrosatellite領域にMSIを認めたものは、クロム肺癌では33症例40病変中30病変(75%)と高頻度であった。非クロム肺癌は29例中4例(13.8%)であった。クロム肺癌においては、対照例と比較して有意に高頻度MSIを認めた。また、MSIを認めたmarkerの個数が多い症例ほど、クロム暴露年数が多い傾向を認めた。3p、5q、9p、17p領域においては、LOH認めた症例の頻度は、クロム肺癌と非クロム肺癌で有意な差は認めなかった。 クロム肺癌ではMSIが高頻度で認めることより、修復遺伝子の異常があるかどうか、検討した。修復遺伝子hMLH1とhMSH2の蛋白の発現を検討するため、クロム肺癌28例、非クロム肺癌28例について、hMLH1とhMSH2のモノクローナル抗体にて免疫染色した。非クロム肺癌では全例hMLH1とhMSH2とも強発現していた。クロム肺癌ではhMLH1が14/28が強陽性、10/28中等度陽性、4/28弱陽性、hMSH2では20/28が強陽性、6/28中等度陽性、2/28が弱陽性であった。以上よりクロム肺癌では修復遺伝子蛋白の発現が低下している症例を認め、これがMSIの頻度が高い原因の可能性がある。
|