パーキンソン病は、現在なお原因が同定されずにいる神経変性疾患である。その主病変は中脳黒質細胞(ドパミン作働ニューロン)や青斑核細胞(ノルアドレナリン作働ニューロン)の選択的神経細胞死である。固縮と無動症は黒質・線条体のドパミン系の障害が原因になっていると考えられるのに対して、安静時振戦はL-Dopaが奏効する症候の一つではあるが、意外なことに、ドパミン系の障害だけでは振戦の発現機序は明快に説明できない。サルとネコの中脳被蓋腹内側部へのhorseradish peroxidaseの局所注入実験において、黒質と背側縫線核の細胞が多数標識され、黒質線条体ドパミン系の障害とともに縫線核セロトニンニューロンの障害が重なって初めて安静時振戦が発現することが示唆されている。 今回の実験では、ネコ10匹を用いて背側縫線核の定位的凝固破壊とMPTPによるドパミン系の障害により、振戦誘発を試みている。MPTP投与のみではネコに振戦は誘発されなかったが、背側縫線核を含む領域の凝固破壊を行った後にMPTPの反復投与を行ったネコ2匹で、MPTP投与5分後より約40分間にわたり、4〜5Hz前後のパーキンソン病類似の静止時振戦が実際に誘発された。このネコでは、MPIPの反復投与により再現性をもって振戦が誘発されている。これに対して凝固巣に背側縫線核を含まないネコでは振戦は誘発されていない。また組織学的な検討では、いずれも黒質細胞の脱落は見られず、MPTPの薬理効果はネコでは一過性で細胞脱落まではいたらないものと考えられた。 しかし残念ながら、現在の背側縫線核を含む凝固巣はまだ大きく、背側縫線核と振戦との関わりを確定させるためには、凝固破壊巣を縮小させ背側縫線核に正確に限局させてゆく必要がある。現在、脳室造影ともに、新規購入したマイクロマニュピュレーターを使用し、ターゲット正確に同定することを試みている。
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