【目的】パーキンソン病の主病変は中脳黒質細胞(ドパミン作動ニューロン)や育斑核(ノルアドレナリン作動ニューロン)の選択的神経細胞死であるが、安静時振戦の発現機序についてはこれらの障害のみでは十分な説明ができない。サルのパーキンソン病様振戦誘発部位として知られる中脳被蓋腹内側部へのhorseradish peroxidaseの局所注入実験において、サルおよびネコで黒質と背側縫線核の細胞が多数標識された。今回の研究では、黒質とともに縫線核セロトニンニューロン障害が振戦発現に関与していることを明らかにする。 【方法】成熟ネコを用いて背側縫線核の脳定位的凝固破壊を行った後、MPTPによる黒質ドパミン系の障害を加える。ネコ15頭で背側経線核凝固破壊群と非破壊群の2群を作製し、両群に隔日投与でMPTP3mg/kg/dayの筋注投与を8〜14回行い、注入後の反応をビデオ・筋電図で記録した。凝固巣は摘出脳標本の連続切片で確認した。 【結果】程度の差はあるもののMPTP投与後には、いずれの群でも固縮が観察された。ほぼ正確に背側縫線核を含む凝固巣を作製し得た3頭のネコで、MPTP反復投与により7〜8回目の投与後から振戦が観察された。ビデオ及び筋電図による解析で、振戦は安静時および四肢の軽度屈曲肢位で生じ、その周期は4〜6Hzのパーキンソン病振戦と類似した。この中の2頭では7〜8回目のMTPT注入から15〜40分に渡って振戦が発現し次第に消退した。残りの1頭では8回目以後はMPTP注入をしない時間帯にも同様の振戦が観察された。凝固破壊群でも背側縫線核に破壊が及ばなかったネコでは、振戦は発現しなかった。 【結論】ネコにおいて、安静時振戦モデルを作製し得た。振戦の発現には黒質ドパミン系と縫線核セロトニン系の両者の障害が関与している可能性が強く示唆された。
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