研究概要 |
海馬錐体神経細胞は一過性前脳虚血負荷後に遅発性神経細胞死を起こす。この機序の解明は,虚血性神経細胞障害の機序解明に役立ち,更に臨床での虚血性脳血管障害の治療への応用が期待される。本研究では,海馬領域において脳虚血で発現に変化をきたすmRNAをAtlas cDNA Expression Arrayを用いて検索した。また、人類に近い日本猿を用いて一過性脳虚血を負荷し、神経所見と組織学的所見を検索した。砂ネズミの前脳虚血はフローセン麻酔下で両側総頚動脈を5分間遮断して作成した。砂ネズミはコントロール、再潅流6時間後と2日後の3群に分けた。海馬組織からPoly A+ RNAを抽出した。Atlas cDNA Expression Arrayを用いてmRNAの変動を観察した。脳虚血によって一過性に増加するmRNAは32個観察され、新たに誘導されるもの38個も観察された。新たに誘導されたmRNAはCell-cell communication,Protein turnoverに関連するものが多かった。日本猿はフローセン麻酔下で右前頭側頭開頭を行い、右中大脳動脈を30分間遮断し、虚血負荷を与えた。麻酔から覚醒後左不全片麻痺の神経症状が観察されたが、虚血負荷後6時間の大脳皮質、海馬の組織学的検索では正常所見を呈した。日本猿においても一過性脳虚血で発現に変化をきたすmRNAをAtlas cDNA Expression Arrayを用いて検索を予定している。種々の視点から数多くのmRNAを一度に観察するには大変重要な研究方法であった。今後、一過性脳虚血による神経細胞傷害の治療法を検討したい。
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