研究概要 |
呼吸窮迫症候群(ARDS)では、サーファクタント阻害物質が出現する結果、呼吸不全が発生する。阻害物質に拮抗する人工サーファクタントを開発する目的で実験を行い、下記の知見を得た。 (I)多糖類の添加によるサーファクタントの活性向上:(1)サーファクタントにデキストラン(多糖類)を加えると、血清の阻害作用に拮抗することを見い出した。この現象は、ウサギ胎仔を用いた生物学的評価系でも証明された。また、最も有効なデキストランの分子量は、40-70kDaであることを確認した。(2)ARDSのラットにサーファクタントのエアロゾル吸入療法を30分間行なったうえ、デキストランのエアロゾル吸入を15分間追加すると、サーファクタントの吸入のみに比べて、治療効果が有意に増強した。(3)胎便吸入症候群にもデキストランが効果を示すことを見い出した。 (II)サーファクタント蛋白の含有量および分子構造の調整による活性の向上:(1)合成リン脂質の組み合わせに、サーファクタント蛋白BおよびC(SP-BおよびSP-C)を種々の濃度で添加した再構築サーファクタントを作成し、ARDSのラットに投与して治療効果を比較した。その結果,SP-Bを0.7%以上、SP-Cを1.4%以上添加すると,治療効果を示すものが作成できることを証明した。(2)正常なSP-Cにはパルミトイール側鎖が存在するが、この側鎖をペプチドに人工的に結合させることは困難である。しかし、パルミトイール側鎖を欠いたペプチドを重合させた2量体は、正常なSP-Cより生理学的な作用が優れていることを見い出し、SP-Cの人工合成に関する有力な示唆を提供した。 (III)その他の追加研究:(1)プロポフォール(静脈麻酔薬)により炎症反応が抑制されること、(2)血清により不活化したサーファクタントの機能が終末呼気陽圧により改善すること等々を確認した。
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