研究概要 |
末梢神経損傷後の急性一慢性痛の病態進展過程に、末梢知覚および脊髄神経系の可塑性が主たる機序と判明し、この病態進行をいかに抑制し傷害された細胞の再生能を高めるかが治療の重要な課題とされる。 ラットニューロパチックペインモデルを用い、1)脊髄神経系の神経可塑性における分子生物学的機序,および2)治療応用の検討を行った.SDラットで左坐骨神経絞扼モデルを作成した.また、大槽よりITにループ型マイクロダイアリシスプローべを挿入し(先端:腰髄1-2),透析液のglutamate濃度をHPLC法で測定した.絞扼術前,3,5,8,10日目における熱刺激に対する反応(ホットボックス)を観察し,5および10日目にマイクロダイアリシスを行ったのち灌流固定し,脊髄を摘出したのち,免疫組織学的評価(c-fos蛋白,TUNEL染色,HE染色)を行った.さらに治療として,それぞれ(1)N-type Ca channel Blocker(IT),(2)5-HT2A Blocker(I.P.),(3)4-methyl cathecol(4-MC,I.P.)を投与し,その効果を評価した. その結果,1)坐骨神経絞扼により,熱性痛覚過敏が増強し脊髄glutamate放出増加を伴った.痛覚過敏の初期状態で脊髄表層のc-fos蛋白誘導とアポトーシスが見られ,遅発生に介在ニューロンの壊死が認められた.したがって,glutamate神経の過剰興奮が脊髄神経可塑性を誘因し,遺伝子発現やアポトーシスを引き起こし障害が発現するものと考えられる.その後,介在ニューロンが壊死すると脊髄神経系の調節機構が消失し,症状が慢性化するものと示唆される.2)治療法では,脊髄N-type Ca channel Blocker投与は,脊髄glutamate放出の抑制を始め,これらの測定項目を有意に抑制し,抹消5-HT2A Blockerは軽度に抑制した.また,神経成長因子の合成誘導をもたらす4-MC末梢投与は,脊髄glutamate放出の抑制を始め,これらの測定項目を軽微しながら有意に抑制することが判明した. 以上のことから,ニューロパチックペインの発現には,1)脊髄glutamate神経の過剰興奮に起因した細胞内一核内プロセス変調が起きアポトーシスを招来し,これが症状発現に関与する可能性があること,さらに,慢性痛への移行には介在ニューロンの障害が関与すると示唆され,神経一免疫回路網の面から理解がさらに進んだ.2)治療に向けて,脊髄N-type Ca channel Blockerや末梢5-HT2A Blockerの有用性に加え,栄養因子(グリアとの相互作用)の合成誘導が細胞死の過程を修復し機能回復を促進することが判明した.今後,さらに移植術やアデノベクターウイルスNGF投与の治療可能性に向け検討を深めたい.
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