ラット腸間膜微小循環系において、吸入麻酔薬ハロセンならびにセボフルランによる白血球接着現象は、ヘム代謝酵素ヘムオキシゲナーゼ(heme oxygenase-1;HO-1)誘導により抑制され、HO-1拮抗薬Zinc Protoporphyrine(ZnPP)により接着現象を再現できたことから、HO-1活性自身が白血球接着抑制に関与している。ヘム代謝産物のうち、ビリルビン表面灌流が微小血管血流を著しく阻害する一方、CO投与がHO-1誘導と同じ程度の抑制効果を示したことから、HO-1誘導による白血球接着反応抑制は主にCOの作用によるといえる。また、抗酸化物質ビリルビンが血流をむしろ阻害したのは、吸入麻酔薬が酸化ストレスではないか、ビリルビンが血管内皮細胞にNO scavengerとして作用している可能性がある。いずれにしても、NOS阻害薬により腸間膜微小循環血流は著しく阻害され、to-and-fro現象を繰り返し、CO表面灌流が血流を回復させる傾向を示した。したがって、HO-1誘導による白血球接着現象はNO依存性である一方、吸入麻酔は血管内皮細胞のNO scavengerに対する感受性を高めていると結論できる。併せて検討している血小板動態も白血球とほぼ同様の傾向を示した。3年間の研究により、HO-1由来のガス状メディエーターCOが微小血管内皮細胞NO産生系を介して、麻酔薬惹起性白血球ならびに血小板接着現象を抑制していることを明らかにした。ストレス応答酵素HO-1が誘導されるには、ある一定の時間を要するために、腹膜炎や多発外傷などHO-1が既に誘導されている重症患者の麻酔に、本研究結果が術後炎症性組織障害や凝固異常などの点から臨床的意義をもつ。
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