研究概要 |
「前立腺癌の増殖進展機序の解明」のテーマのもと、この3年間になされた研究の成果は、凡そ、次の通りである。 1.前立腺癌患者において、癌にかかりやすい体質の目安となる代謝酵素遺伝子多型の解析。1)発癌物質の2段階代謝酵素のうち、CYP1A1とNAT1の相対危険率が夫々増加していた。単独では僅かに増加している他の酵素でも、GSTM1をとりあげてCYP1A1と組合せることにより危険率が増加した。2)テストステロンの合成代謝に関係する酵素のうち、CYP17の相対危険率が高かかった。 2.免疫組織学的手法による前立腺癌の組織悪性度の解析。内分泌不応癌、stage C,D症例ではKi-67やbcl-2の癌遺伝子の発現増加がみられ、特にKi-67は単独で癌増殖を予知できるマーカーとなることが示唆された。 3.前立腺癌の分子遺伝学的研究。摘出前立腺癌組織について、染色体8p領域(LPL,D8S201)に欠出(LOH)を認める頻度が高かかった(48%)。特に、LPL locusの頻度は前立腺癌stageの増加と並行していた。また、microsatellite instabilityは検体の28%に認められた(stage A:0%,stage B:29%,stage C:22%,stage D:38%)。 4.α6インテグリン発現に関係するmitogen-activated protein kinases(MAP kinase)経路の解析。アンドロゲン非依存性前立腺細胞株を用いた実験において、ルシフェラーゼアッセイやゲルシフトアッセイ法などを用いで、α6インテグリンプロモーター領域に転写因子としてSp1を同定し、このSp1の結合能の増加がMAP kinaseを介して促進され、その結果α6インテグリンの発現が増加することを観察した。この経路が前立腺癌の転移、浸潤に関係していると考えられた。
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