研究概要 |
1.ICSI技術の向上:ICSI卵の発生率(第1卵割中期到達率)は昨年度の62%から今年度は72%に上昇した。これは、ICSI技術の向上によって卵に与えるダメージが少なくなったためと考えられる。 2.卵子の加齢と精子染色体異常の関連:約50個の過排卵子へヒト精子をICSIするのに2〜3時間を要する。この間に起こる卵子の加齢が精子染色体異常誘発の原因になるか否かを調査した(485卵を分析)。採卵後30分以内にICSIした群での精子染色体異常率が3.3%なのに対し、60,90,120,150分群では異常率が9.8%,9.7%,7.1%,15.9%に上昇した。しかし、まだ各群の例数が少ないので、今後さらに検討が必要である。 3.形態正常精子の染色体分析:今年度は、昨年のデータに258例を加えて合計458精子を分析した。染色体異常出現率は、異数性8例(1.7%)、構造異常41例(9.0%)であった。 4.形態異常精子の染色体分析:小形頭部をもつ精子142例、大型頭部をもつ精子108例を染色体分析した。両群における構造的染色体異常の頻度(4.9%,8.3%)は正常精子群と差がなく、また、小形精子群の異数性頻度(2.8%)も正常群と差がなかった。しかし、大型精子群では他の群には見られない異数性(2倍体も含めて、極端に染色体数の多い高数性異常)が増加した(6.5%)。すなわち、大型精子のICSIは染色体異常胚生成の危険性をわずかではあるが有意に増加させることが分かった。 5.次年度の研究計画:頭部が不規則に変形している精子(不定型精子)および射精された時点で運動性をもたない精子(形態的には正常)で染色体異常が増加するか否かを調査する。これらのデータは、乏精子症患者のICSI治療のように、限られた数の精子の中からICSI精子を選抜する場合に特に重要な情報となる。
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