研究概要 |
1.ヒト精子の頭部奇形(尖状奇形および伸長奇形)と染色体異常の関連性を調査した。 (1)上記2種の奇形精子を細胞質内に注入(ICSI)されたマウス卵子ではその後の発生率が有意に低下した。 (2)伸長奇形精子における構造的染色体異常出現率(8/24,33.3%)は形態正常精子の場合(53/618,8.6%)と比較して有意に増加したが、尖状奇形精子における異常率(8/77,10.4%)は対照群と差を示さなかった。すなわち、精子頭部の奇形には染色体異常に関連するものとしないもののあることが明らかになった。 2.精液中で全く運動能力をもたない精子(不動性精子)における染色体異常出現率を調査した。 (1)不動性精子をICSIした卵の発生率は運動性精子ICSI卵の場合と差を示さず、卵子附活への影響はなかった。 (2)構造的染色体異常出現率は不動性精子(7/157,4.5%)と運動性精子(4/116,3.4%)の間で差を示さなかった。 (3)構造的染色体異常出現率は、運動性精子を培養液(BWW)中に保存した時(8.8%)よりも精漿中に保存した時に(3.4%)低い傾向を示し、精子保存方法と染色体異常率の関連性が示唆されたので、次の実験3を行った。 3.不動性精子染色体に及ぼす培養液中保存および精子回収のための遠心洗浄処理の影響を調査した。 (1)不動性精子を3種の培養液(BWW,HTF,PBS)及び精漿に2〜2.5時間保存した後にICSIした結果、前3種の培養液中保存の場合には、いずれも精漿中保存の場合よりも有意に受精卵の発生率が低下した。 (2)構造的染色体異常出現率は精漿保存群(6/112,5.4%)に比べてBWW液保存群(25/97,25.8%)とHTF液保存(15/46,32.6%)で有意に高く、PBS液保存群(6/42,14.3%)でも増加傾向を示した。 (3)BWW液保存群で精子回収のために遠心処理を付加すると染色体異常率はさらに増加した(25.8%→48.1%)。
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