妊娠中毒症は妊娠前、妊娠中の様々な子宮内外の環境要因がその発症の第一の原因ながら、従来よりこれに何らかの遺伝素因も関与しているのではないかという考え方があり、最近注目されはじめている。そこで本研究は、これら妊娠中毒症の遺伝素因について分子遺伝学的手法を用いて解析することを目的とした。具体的に平成10年度は、妊娠中毒症の遺伝素因となりうる遺伝子多型の同定を行うために、血管内皮型一酸化窒素合成酵素endotherial Nitric Oxide synthetase(eNOs)遺伝子の遺伝子多型と妊娠中毒症の関連性を検討した。 対象は、日本産科婦人科学会の診断基準により重症妊娠中毒症と診断された妊婦113名、ならびに年齢および妊娠週数をマッチさせた正常妊婦130名とした。遺伝子多型の解析は、polymerase chain reaction-restriction fragmentlength polymorphism(PCR-RFLP)法を用いた。eNOs遺伝子の第7exonに存在するG894T多型およびpromoter領域に存在するT(-786)C多型と妊娠中毒症の関連性を検討した。その結果、G894T多型については、重症妊娠中毒症妊婦と正常妊婦の間でその遺伝子頻度に差がある傾向が認められた。しかしながら、統計学的有意差はなかった(p=0.09)。一方T(-786)C多型については、その遺伝子型頻度、遺伝子頻度ともに差は全く認められず、この多型が妊娠中毒症の発症に関与する可能性は否定してよいことが初めて明らかとなった。来年度は、さらに新しい未知の妊娠中毒症関連遺伝子の多型について検索、同定するとともに、できれば妊娠中毒症の発症要因となる未知の遺伝子異常(塩基置換、欠失、挿入など)を同定したいと考えている。 以上のように、今年度、本研究は概ね当初の計画どおりに進行することができた。
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