平成10年度は、血管内皮型一酸化窒素合成酵素 endotherial Nitric Oxide synthetase 遺伝子の遺伝子多型と妊娠中毒症の関連性を検討したが、本年度も引き続き本症の遺伝素因となりうる感受性遺伝子の多型の同定を行った。具体的には、PAI-1遺伝子4G/5G多型、凝固第V因子遺伝子1691G/A多型、Prothrombin遺伝子20210G/A多型と妊娠中毒症の関連性を検討した。 対象は、日本産科婦人科学会の診断基準により重症妊娠中毒症と診断された妊婦115名、正常妊婦230名、ならびに日本人一般集団としての人間ドック受診者558名とした。いずれも口頭および文書によるインフォームド・コンセントを得て採血を行い、DNAを抽出した。遺伝子多型の解析は、polymerase chain reaction-restriction fragment length polymorphism(PCR-RFLP)法を用いた。その結果、解析を行った遺伝子多型のうち、PAI-1遺伝子4G/5G多型の4G/4Gホモ接合型の頻度および4G対立遺伝子の頻度が、正常妊婦および人間ドック受診者と比較して、妊娠中毒症群では有意に増加していた。このことにより、日本人においてはPAI-1遺伝子4G/5G多型が、妊娠中毒症の感受性遺伝子であることが初めて明らかとなり、PAI-1遺伝子4G/5G多型4G対立遺伝子によるPAI-1活性増強による血栓形成傾向が妊娠中毒症の病態発生に関連していることが推測された。なお、凝固第V因子遺伝子1691G/A多型、Prothrombin遺伝子20210G/A多型については、変異型対立遺伝子は検出できなかった。 以上のように、今年度も概ね当初の計画どおりに進行することができ、新しい知見を得ることができた。
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