1.性ステロイドホルモンの精子受精能獲得過程への関与ならびにその作用機構の解析 プロゲステロンは、精子細胞内へのCa++の流入を引き起こし、acrosome reactionを誘起する。この作用は精子細胞膜上のプロゲステロン受容体(PR)を介したnon-genomic作用と推定されている。またエストロゲンも精子細胞内へのCa++の流入を引き起こし、精子の受精能発現に関与する。このエストロゲン作用も細胞膜上のエストロゲン受容体(ER)を介したものと推定されている。しかしながら、これらの本態は全く解明されていない。 ヒト精子について遺伝子レベルでの解析を試みた。 成績:精巣のcDNAライブラリーから、これまで未報告のPR isoform S cDNAをクローニングした。PR isoform Sは、細胞内型PR cDNAのホルモン結合領域に対応するエキソン4から8の上流に、新規の単一エキソン(PR遺伝子エキソンS)に由来する配列を有していた。このPR isoform S mRNAは、射出精子に高レベルに検出された。新規のERα isoform S cDNAを精巣のcDNAライブラリーから同定した。このERα isoform Sは、細胞内型ERα cDNAのホルモン結合領域に対応するエキソン4から8の上流に、新規の単一のエキソン(ERα 遺伝子S)に由来する配列を有していた。精子におけるERα isoform S mRNAの存在も確認し得た。 2.卵細胞質内精子注入法(ICSI)における精子原形質膜の性状と卵活性化 精子が卵を活性化させる機序として、精子因子(sperm factor:SF)説が有力である。SFの卵細胞質内への放出は、精子原形質膜の状態によって相違の出ることが推察される。ICSIを行い、注入した精子の原形質膜の状態が卵活性化に与える影響をヒトとマウスの精子で検討した。用いた精子は、処理を施さない運動精子(A群)、細胞膜に受傷処理を行い不動化させた精子(B群)、Triton Xによる処理で原形質膜を取り去った精子(C群)の3群である。 成績:ヒト精子の活性化率は、C≒B≫Aで、A群が有意(p=0.002)に低下していた。精子頭部膨化率は、C>B>Aの順で有意差を認めた(p=0.002)。一方マウスでは、卵活性化率、精子頭部膨化率とも3群間で差を認めなかった。ヒト精子ではICSI時のSFの放出過程に細胞膜の受傷状態が大きく影響するが、マウス精子は卵へ注入された後intactな細胞膜も速やかに除去されるためか、注入前の膜の受傷状態に影響を受けないと考えられた。
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