研究概要 |
本科学研究費補助金により以下の研究結果を得た。1.ヒト鼻腺細胞をコラーゲンゲル内で無血清培養液を用いて立体(3D)培養に成功した。この結果培養腺細胞は極性を有した腺管構造を示した。2.本培養系を用いて上皮増殖因子(BGF),角質細胞増殖因子(KGF),ビタミンA誘導体(RA)が培養細胞の増殖と分化に及ぼす影響を検討した。この結果EGF, KGFは培養細胞の増殖を増強させるが分化には影響を示さなかった。一方、RAは増殖を抑制し分化は促進させた。気道の慢性炎症ではEGFやKGFなどの成長因子が腺の増殖に強く関与し気道粘液過分泌の一因となっていることが示唆された。今後は本培養系を用いてTGF-βやPDGFなど他の増殖因子についても検討したい。3.ラット気管を摘出し別のラットの皮下に移植する気道粘液産生モデルを用いて薬物の粘液産生に及ぼす影響を検討した。グルココルチコイドや14員環マクロライドを移植されたラットに全身投与することにより、移植気管内の粘液産生量は有意に減少した。今後は本モデルを用いて気道液の過分泌と物性に対する薬物の影響をみたい。4.ラット鼻腔の杯細胞増殖モデルを用いてLPSによる炎症とI型アレルギーでは粘液産生に異なったアラキドン酸代謝物が関与していることが示唆された。5.慢性副鼻腔炎患者鼻汁の粘稠度に及ぼす粘液構成成分の影響を重回帰分析を用いて検討した。この結果局所産生糖蛋白(ムチン)が粘稠な気道液の最も重要な決定因子であることが明らかになった。今後は気道粘液の過分泌のメカニズムをさらに追求するとともに、その制御の方法について検討したい。
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