本研究は内耳障害とフリーラジカルとの関係、特にNOの関連した内耳障害機構の解明と、内耳障害の新しい治療法の開発を目的として行われた。具体的には正常ならびに内耳障害モデル動物でのNO、活性酵素の発現を免疫組織学的に検討し各種フリーラジカル阻害剤による内耳障害の軽減効果を検討した。その結果、正常動物の内耳では、NOSI、NOSIIIのみが認められたが、内耳障害モデルではNOSIIが発現すること。NOSにより産生されたNOは活性酸素と結合してパーオキシナイトライトを産生し内耳障害性に働くこと、フリーラジカル阻害剤により内耳障害が軽減することなどが明らかとなった。また、DAF-2DAを用いた実験から正常動物でもGM、グルタミン酸の刺激でNOが産生されること、内耳障害動物では正常動物に比べて有意に大量のNOが産生されることが確認された。これらのことより、内耳障害の発症には、初期にはcNOSからのNOがついでNOSIIからのNOが強く関連していることが明らかとなった。さらに、臨床的にメニエール病患者10名にフリーラジカル消去剤を投与し、治療効果を検討した結果、1年経過した時点でめまい、聴力、耳鳴、能力低下にいずれも50%以上の効果を認め、また、シスプラチン難聴患者に対しても10例中8例で聴力の改善が認められた。以上より、内耳障害の発現にはフリーラジカルが強く関連しており、フリーラジカルを制御することで内耳障害の新しい法の開発が可能なことが強く示唆された。 これらの結果は第100回日本耳鼻咽喉科学会総会、平成11年日本平衡神経科学会勉強会、第8回、第9回日本耳科学会、第57回、第58回日本平衡神経科学会で報告するとともに、12編の論文にまとめられた。
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