研究概要 |
ラット軟口蓋味覚刺激に対する大錐体神経積分応答を調べた結果、甘味を有するD-アミノ酸に対して、L-アミノ酸よりもより大きな応答性を示した。さらに、齧歯類で甘味応答を特異的に長時間抑制する蛋白質gurmarinによる、大錐体神経味覚応答の抑制効果を調べた。その結果、蔗糖、塩酸、塩酸キニーネ、食塩、および塩基性L-アミノ酸塩酸塩(ArgHCl,LysHCl)に対しては顕著な抑制効果は認められなかった。しかし、6種の糖(蔗糖、果糖、ラクトース、マルトース、ガラクトース、ブドウ糖)およびサッカリンに対しては、応答が40%程度にまで有意に抑制された。さらに、5種のD-アミノ酸(Asn,Phe,Gln,Trp,AlaおよびHisfree base)の大錐体神経応答に対しては、Trpを除く全てのアミノ酸において有意なgurmarinの抑制効果を認めた。一方、L-体では、L-AlaとL-AsnおよびGlnに対する応答のみgurmarin処理によって有意に抑制された。また、大錐体神経の単一ユニット応答を調べた結果、アミノ酸に対して感受性を示す線維は蔗糖に対しても刺激効果を持つものが多いが、アミノ酸に特異的に応答するユニットも少数ながら観察された。これらの結果から、例外はあるもののD-アミノ酸の多くはラットにおいても甘味受容メカニズムによって味覚応答を生じさせていることが示唆された。また、ラット鼓索神経において、塩基性および中性アミノ酸のpHを酸によって低下させると応答が顕著に増大し、それはα位のアミノ基のチャージによる事が示唆された。また、クエン酸に対する鼓索神経応答パターンは塩酸のそれよりも100-200msec遅れた経過をたどる事が分かった。これらの結果から、クエン酸の味覚刺激効果はジカルボン酸としてのそれ自体の刺激効果のみならず、pH低下によるアミノ酸の味覚刺激増強効果も有する可能性が示唆された。
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