研究概要 |
本年度は、(1)ラット網膜神経節細胞の単離培養と(2)ラット網膜虚血潅流モデルにおける神経細胞死のメカニズムに関する検討を研究の中心とした。 (1)に関しては、パニング法を用いた培養系の確立に成功した。しかしながら、回収できる細胞数が十分ではなく、得られた細胞を用いての細胞死のメカニズム解析は十分には進行していない。一方、(2)に関しては、網膜進展標本を用いたTUNEL法の確立に時間がかかったが、十分に再現性よく、死細胞を同定できる条件が決まった。この系を用いて虚血再潅流モデルにおけるAP-1遺伝子の発現、caspase family proteaseの発現、BDNFによる細胞死抑制とその過程におけるAP-1遺伝子発現との関連についていくつかの新知見を得た。すなわち、網膜神経節細胞(上丘より蛍光色素を注入して確認)の細胞死にあたり、c-Jun遺伝子産物の発現が認められる。BDNF硝子体投与により、細胞死は約半分に抑制されるが、この時、c-Jun遺伝子産物を発現している細胞数の減少は認められなかった。一方、caspase-1,caspase-2,caspase-3の発現についても検討した。虚血再潅流障害においては、caspase-1,caspase-3の発現は殆ど認められなかったが、caspase-2陽性細胞は、再現性良く認められた。BDNF投与により、caspase-2陽性細胞数は有意に減少した。この結果から、網膜神経節細胞の細胞死にcaspase-2が関与していること、BDNFの神経保護作用の一部はcaspase-2の発現抑制によるものであることが分かった。
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