ラットの網膜微小循環における白血球動態の評価方法として、acridine orange digitalfluorographyの手法を確立した。麻酔下でラットの尾静脈にルートを確保し、角膜に専用のコンタクトレンズをのせ、走査型レーザ検眼鏡(SLO)でラットの眼底を観察する。尾静脈から核染色色素であるacridine orange(AO)を注入すると、染色された白血球がSLOのアルゴンレーザにより励起されて蛍光を発するため、網膜を循環あるいは集積している白血球を白い過蛍光点として観察可能であった。得られた画像から、コンピュータによる画像解析を用いて網膜毛細血管内白血球速度、網膜内に集積した白血球数、網膜主幹血管径を測定した。マウスでもAOを尾静脈にone shotで注入することにより、その撮影方法を確立した。次にラットの病態モデルにおける白血球動態を評価するため、高脂血症モデルと網膜虚血再灌流モデルを作成した。高コレステロール食を4週間投与した高脂血症モデルでは、網膜内の白血球集積数がコントロールと比べ有意に上昇していた。また、HMG-CoA還元酵素阻害薬を含有した高コレステロール食を投与したラットでは、高脂血症モデルと比べ白血球集積数が有意に抑制されていた。網膜虚血再灌流モデルは、視神経を結紮して網膜の血流を途絶させ、60分後に結紮を解除して再灌流させることにより作成した。網膜虚血再灌流モデルでは、主幹静脈の拡張、白血球のローリングが観察され、網膜内の白血球集積数は著明に増加していた。また、白血球のローリングに関与する接着分子であるセレクチンを阻害するセレクチン阻害剤を、再灌流5分前に投与することにより、ローリングしている白血球数、網膜内白血球集積数は有意に抑制された。組織学的検討でも組織障害が軽減しており、セレクチン阻害剤の虚血再灌流障害における有効性が示唆された。 以上の結果より、本法は生体眼の網膜微小循環における白血球動態の評価方法として非常に有用であること、また、薬剤効果の定量的判定も可能であることが判明した。
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