これまでに我々はマウス腸管に存在する上皮細胞間リンパ球の前駆細胞の集積、クリプトパッチの報告を行ってきた。本研究はこのようなリンパ組織がヒトに存在するかを検討することが主たる目的である。これまでに成人空腸、幼児空腸について手術材料を用いて検討してきたが、マウス腸管に存在するようなc-kit 陽性細胞の集積はヒト腸管では認めないことが明らかになった。ヒト腸管では、c-kit 陽性細胞はパイエル板や孤立リンパ小節の周辺に存在し、また、粘膜固有層に散在性に存在する。つまり、c-kit 陽性細胞が中心のマウスクリプトパッチのようなリンパ組織は存在しない。一方、上皮細胞間リンパ球はCD3腸性Tリンパ球の検討によって1-3歳の幼児空腸には成人に匹敵するほどのものが存在し、上皮細胞間リンパ球が乳児期には十分な発達分化を遂げることが明らかとなった。マウスではクリプトパッチリンパ球が上皮細胞間リンパ球に分化することはほぼ明らかとなったが、ヒトではクリプトパッチ相当リンパ組織がないとすると胸腺外分化する上皮細胞間リンパ球の発達分化機構は未だ未解決の問題である。今後我々は、胸腺外分化リンパ球はマウスでは多数腸管に存在するが、ヒトではあまり多くないことから、生後早期にヒトでは胸腺外分化リンパ球の腸管での供給は終わってしまうのではないかとの仮定にたって、検索する年齢を新生児期や胎児期にまで広げて腸管の検索を行うことを検討中である。
|