研究概要 |
緒言:歯科接着技法は,被着面処理および接着材などの進歩に伴い,う蝕予防から補綴修復に至る広範囲で応用されてきている。しかし,口腔内の過酷な条件下での接着は耐久性や辺縁封鎖性などに難点があり,その主原因は象牙質側に生成する樹脂含浸層(ハイブリッド層)の物性に起因している。そこで,このハイブリッド層の物性向上を目的に,種々のアミノ酸メタクリレートを合成してボンディング材に導入し,その分子構造と物性の関係について検討した。 材料および方法:1)アミノ酸メタクリレート(O-methacryloyl-N-acyl tyrosine:MAATY)は,チロシンのN位にメチレン鎖長の異なる脂肪族原子団を結合させたMBTY,MVTY,MHTY,MOTYおよびカルボキシル基を含んだ芳香族原子団を結合させたMBZTY,MCBZTY,MDCBZTYを合成し,IRおよびNMR分析してその構造を確認して実験に供した。2)ボンディング材(MAATY-HEMA)の吸水率を経時的に測定した。3)被着体は,ヒト大臼歯の象牙質をシリコンカーバイドペーパー(#600)を用いて研削仕上げした。4)接着強さの測定は,3.8φmmに規定した象牙質被着面に試作ボンディング材を塗布し,そこに市販コンポジットレジンを充填して作製した試験体について行った。 結果および考察:試作ボンディング材重合体の吸水率は,TyrosineのN位のメチレン鎖長が長くなるに従って減少した。また,N位の芳香族原子団については,これに付加しているカルボキシル基によって吸水率が増大した。接着強さは,MDCBZTYおよびMOTYが初期値が高いが,吸水率の高いMDCBZTYは,耐久性に問題が生じた。したがって,ハイブリッド層のポリマーは吸水率が少なく接着強さが高い分子構造の化合物を選択すべき事が示唆された。
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