研究概要 |
副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)は悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症の主要な原因因子であり,正常組織においても多様な生理作用が報告されている。PTHrP遺伝子alternative splicingを受けてmRNAとなり,そして翻訳された蛋白は翻訳後修飾を受けて種々の機能フラグメントとなって作用していると考えられている。この一連の経過のなかでmRNAの発現の状態を把握することは悪性腫瘍におけるPTHrPの関与を理解するうえで重要と考えられる。本年度の研究では1989年1月から1996年5月の間に日本歯科大学新潟歯学部付属病院を受診し,組織生検にて扁平上皮癌と診断された32例の口腔扁平上皮癌を用いて,in situ hybridization法によりPTHrP mRNAの発現を検討し,免疫組織化学によるPTHrP発現や口腔扁平上皮癌の性状と比較し次の結果を得た。 1.PTHrP(6-16)認識プローブによりmRNAシグナルは口腔扁平上皮癌の25.0%(8/32例),PTHrP(50ー60)認識プローブによるmRNAシグナルは96.9%(31/32例)で検出された。 2.PTHrP(6-16)認識プローブおよびPTHrP(50-60)認識プローブによるmRNAシグナルはともに免疫組織化学によるPTHrP(1-34)発現,PTHrP(38-64)発現と関連はなかった。 3.PTHrP(6-16)認識プローブによるmRNAシグナルは低分化な腫瘍,角化度が低い腫瘍,悪性度の高い腫瘍で強い傾向があった。しかしPTHrP(50-60)認識プローブによ るmRNAシグナルは腫瘍の分化度,角化度,悪性度と関連を示さなかった。 4.PTHrP(6-16)認識プローブおよびPTHrP(50-60)認識プローブによるmRNAシグナルはそれぞれT分類,病期と関連はみられなかった。 以上の結果より,口腔扁平上皮癌の多くでPTHrPが存在することが確認され,癌細胞で合成されることが初めて示された。さらにPTHrPのmRNAの発現が口腔扁平上皮癌の分化や角化,組織学的悪性度に関与していることが示唆された。
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