研究概要 |
本研究では,末梢血リンパ球と口腔癌培養細胞を無血清培地(SFM-101)で同時培養し,PHA刺激によるリンパ球の増殖,CD26の発現および培養上清中のDPPIV活性を測定し,癌細胞培養上清中にリンパ球CD26発現抑制因子が存在するか明らかにするとともに,その物質の同定を試みた。 末梢血リンパ球と口腔癌培養細胞をSFM101で同時培養したところ,培養5日目のリンパ球抽出液,リンパ球培養上清中のDPPIV活性が末梢血リンパ球のみ培養した対照にくらべ,有意(p<0.05)に低下した。すなわち,癌細胞由来液性因子がリンパ球DPPIVの発現を抑制していると考えられた。そこで,癌細胞の培養上清を限界濾過カラムで分画したところ,分子量8,000〜30,000の粗分画にリンパ球活性化抑制物質が存在すると考えられた。ヘパリン結合性アフフィニティーカラムを用いて分子量8,000〜30,000の分画を2.5Mまでの塩濃度勾配で溶出させて分画したところ,リンパ球活性化抑制とともにCD26発現を抑制する物質が少なくとも2つの溶出ピークに存在した。このうちタンパク量の多い溶出ピークの分子量を検索したところ,約25kDaであることが明かとなった。そこで,分子量約25kDaで癌細胞より産生される物質のうち,リンパ球活性化を抑制するサイトカインについて検討した。その結果,口腔癌培養細胞と末梢血リンパ球の同時培養系に抗TGF-β_1抗体を添加すると,リンパ球抽出液と培養上清中のDPPIV活性の抑制が約60%中和されることが明かとなった。 以上の結果より,リンパ球CD26の発現抑制に癌細胞に由来するTGF-β_1が関与していることが示唆された。
|