研究概要 |
我々は、幼児を対象として,撮影のための特別な部屋を敷設する必要がなく,生体に対しても非侵襲的で繰り返し,および長時間の検査が可能で,嚥下時の舌の矢状断面はもちろん,エックス線検査では観察しにくいとされる前額断面の観察も可能であり,リアルタイムに連続画像を得ることができる超音波診断装置を用いた研究を実施した。また,超音波診断装置による実験に先立ち,嚥下運動の基礎的データを得る目的で,以下の3つの実験を行った。第一に,現在臨床的に摂食・嚥下障害患者で使用されている,増粘材食品の温度が嚥下運動に及ぼす影響について健康な成人を対象に検討した。第二に,健康な乳児を対象に,被曝量の非常に少ないエックス線テレビシステムを用いて,吸啜運動中の乳児の嚥下動態について観察を行った。第三に,健康な幼少児を対象に,歯科用エックス線規格写真を用いて,嚥下関連器官の成長変化について検討した。 以上のような研究を踏まえ,超音波診断装置を用いた研究の結果,我々は嚥下時の舌の運動の中で特に呼吸と協調して機能を営む上で非常に重要な部位であり,これまで報告の少なかった舌根部を含めた舌背の矢状断面の動態を明らかにすることができた。これにより,幼児の嚥下動態は乳児型嚥下から成熟型嚥下への移行期にあることを明らかにした。また,健常幼児のデータを定量的に解析することにより超音波診断装置を用いた嚥下運動検査の参考値を得ることができた。 加えて,小児歯科領域で特に問題となる唇顎口蓋裂患者を対象に超音波診断装置と哺乳ビン内圧の同時記録を行った。その結果,唇顎口蓋裂患者の吸啜運動時の舌動態および,Hotz床装着の効果について明らかにすることができた。これらの臨床的意義は大きいと考えられる。
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