これまでのRT-PCRとsingle strand conformation polymorphism(SSCP)解析を用いた研究から歯周炎組織に浸潤するT細胞のクローナリティは歯周ポケット内細菌叢の複雑さから考えると極めて限定したものであり、共通抗原あるいは分子相同性の関与が考えられた。そのような性質を満たす分子として熱ショックタンパク60(HSP60)を取り上げた。HSP60は歯周病原細菌を含む原核細胞から真核細胞まで相同性が高く、かつ免疫原性が高いという性質を持つ。また、炎症などで発現が増強され、歯周炎組織においても発現が確認されている。患者末梢血と健康な歯周組織を有する対照者の末梢血をヒトHSP60(hHSP60)とPorphyromonas gingivalisの相同分子であるGroEL様タンパク(pHSP60)で刺激し、T細胞受容体遺伝子をRT-PCR-SSCPで解析した。歯肉組織についても同様に解析した。さらに塩基配列を調べて共通のクローンの存在を確認した。その結果、重度歯周炎患者において炎症歯肉組織中にhHSP60、pHSP60を認識するT細胞が集積していることが明らかになった。しかしながら両者を比較すると、hHSP60に対するT細胞クローンの頻度がpHSP60に対するT細胞クローンと比較すると有意に高かった。同時にHSP60を認識するT細胞のTh1/Th2サイトカインプロフィールを解析するために刺激培養後IFN-γとIL-4について上清中のタンパクとmRNA発現を解析した。その結果、ヒトHSP60、P.gingivalis GroEL刺激いずれにおいてもIFN-γ産生がmRNAレベル、タンパクレベルで上昇していることが確認された。以上より、歯周炎組織では自己のHSP60に対する免疫応答が起こっており、これが、病態に関与していることが示唆された。
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