研究概要 |
複雑な構造を有し、興味深い生物活性を示すストリキニーネ、ワートマンニンおよびホルボールエステルの触媒的不斉全合成を達成し、当研究室で開発された触媒的不斉炭素-炭素結合生成反応、すなわち不斉Heck反応、多機能複合金属不斉触媒の創製を基盤とする触媒的不斉ニトロアルドール反応、触媒的不斉マイケル反応、触媒的不斉アルドール反応およびルイス酸-ルイス塩基複合不斉触媒によるシアノ化反応の実際的有用性を示すことを目的とした。本基盤研究により、我々がすでに開発していた多機能不斉金属触媒アルミニウム-リチウム-ビナフトール触媒を用いた触媒的不斉マイケル反応の実用性を高めることに成功し、簡便な実験操作により光学的に純粋なマイケル付加体を大量に合成することが可能となった。また、より安定で取り扱いの容易な粉末錯体ランタン連結ビナフトール錯体の開発にも成功した。更に、このマイケル付加体を用いStrychnosアルカロイドの19,20-ジヒドロアクアマイシンの触媒的不斉全合成も達成した。ストリキニーネの全合成においては更に複雑な構造を有するため、上記の合成方法とは大きく異なる合成計画を行った。種々検討を行った結果、ストリキニーネのC環とD環を一挙に構築するタンデム反応を用いる合成方法がより効果的であることが分かってきた。そこで、タンデム反応の基質となる化合物の合成検討を行った。アトム・エコノミーという観点ですべての行程における最適化を行い、側鎖の導入における E,Z の選択性、三枝-伊藤反応におけるPdの触媒化などの問題を解決することができた。タンデム反応の基質となる化合物は反応性の高い官能基を複数有するためにその合成が困難であったが、タンデム反応条件下で容易に除去できるような保護基で一時的にアミノ基を保護することで収率良く合成することが可能となった。現在数種のタンデム反応を検討中であり、タンデム反応の最適化を行った後、全合成を達成する予定である。PI3-kinaseの特異的阻害剤であるワートマンニンの全合成研究では、速度論的分割による分子内触媒的不斉Heck反応、およびClaisen転位反応を用いることにより、フラノラクトン構造に誘導可能と考えられる候補化合物が得られることを見いだした。現在、特に全合成終盤におけるフラノラクトン構造の構築について、精力的に研究を行っている。
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