研究概要 |
不斉合成では常に,生成物のee値や立体を,いかに簡便かつ正確に知るかという問題がある.これ迄比較的普及しているMosher法では,精度や反応性等の面で問題が生じる例も見られ,より良い方法が求められていた.このような状況下,研究代表者は,多重官能性炭素中心をデザインしたCFTA(α-cyano-α-fluoro-ρ-tolylacetic acid)の開発に成功した.これをキラル誘導化剤とするCFTA法はキラル識別能や反応性の面で,Mosher法など既存のいかなる手法をも超えており,その利用を拡大し信頼できる方法として確立するため,CFTAの合成,光学分割法の改良,そしてCFTA法の適用範囲と機構の検証を試みた. 酵素による手法,キラル補助基を用いたジアステレオマー法を検討し,光学的に純粋なCFTAを得る新しい三経路を開発した.このCFTAに種々の光学活性二級アルコール,α-重水素置換ベンジルアルコール,一級アミン,アミノ酸エステルを縮合させCFTAエステルまたはアミドを調製し,各ジアステレオマーのNMRからCFTA部位がもたらすδ値の差(Δδ)を求めた.^1H NMRにてΔδ_Hの正負の符号と絶対配置との間に一貫した相関があり,絶対値は新Mosher法による値を上回った.^<19>F NMRでは化合物群により相関に高低があった.さらにCFTA法の信頼性をab initio計算で検証した.CFPAエステルの安定配座を求めたところ,F-C-C=Oがsynperiplanarに並ぶ構造が最安定であるという結果を得た.これはX線結晶構造解析で得られた構造とも合致した.CFPAアミドではF-C-C=O,O=C-N-Hがantiperiplanarに並ぶ構造が,計算,X線解析によって安定配座として示された.これらの配座はNMRの結果を良く説明しており,CFTA法の信頼性を合理的に解釈するものであった.
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