研究概要 |
1,1′-ビナフチル誘導体に代表される軸不斉を持つ化合物は2つのナフチル環により構成される大きな不斉場を提供する。中心不斉では不斉源そのものには柔軟性は全く無いがビナフチル誘導体は2つのナフチル環のねじれ角が理論的には0°-180°の間を連続的に変化できるため、同じ絶対配置を保ちつつ不斉源そのものに柔軟性がある。これらの特性のために光学活性ビナフチル誘導体、特に1,1′-binaphthalene-2,2′-diol(BINOL)誘導体は不斉分子認識及び不斉合成に頻繁に利用されてきた。本研究はナフタリン環を組み込んだ新しい軸不斉化合物を設計しそれを不斉分子認識に応用しようとするものである。 具体的にはフォトクロミック化合物として注目を集めているスピロビンゾピランの合成と機能開発である。光学活性BINOLを組み込むことにより紫外線による構造変化をCDにより感知する機能を持たせた化合物の創製をひとつの柱とした。このような化合物はアミノ酸の光学異性体を認識しメロシアニン型による発色の持続時間に大きな差のあることを認めた。もうひとつの柱として2結合を経た軸不斉化合物の創製をとりあげた。先に述べたBINOLに代表される軸不斉化合物は一つの単結合の回転束縛によるものであるが本研究の目的化合物は二つの単結合を隔てたものであり全く未知の軸不斉化合物である。本化合物はナフチル環のπ-電子を含む二つの平面により構成される大きな不斉場を提供できること、及び不斉源自体に二つの回転できる結合を持っているため非常に柔軟性の大きな不斉場を提供できる。8,8'-位に充分大きな置換基を有する1,1′-ビナフチルエーテルは期待通り光学活性体が存在することを証明し、またそれぞれのエナンチオマーの単離に成功した。このものは単一分子で出来た二枚羽の傘歯車に対応し極めて興味深い物性を示すことを明らかにした。
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