創薬を志向した新規活性型超原子価ヨウ素化合物を用いる有機合成反応の新展開とその応用を目指して研究実施計画に基づき、いくつかの基盤反応を開発すると共にそれを用いていくつかの生物活性アルカロイド類の全合成研究を行った。その結果、ルイス酸活性型超原子価ヨウ素試薬(PIFA-BF_3・Et_2O)を利用する分子内ビアリールカップリング反応を開発し、アルツハイマー病治療薬として期待されているgalanthamine類の全合成へと展開することができた。また、PIFA-TMSOTfを用いるキノンイミン類の効果的な合成法とPhI=O-TMSN_3を用いる環状スルフィド類へのα位アジド化反応の組み合わせにより特異な構造と非常に強い細胞毒性を有するmak alu vamine Fの最初の全合成にも成功した。これら全合成に利用した反応は一般性が高く、種々の類縁体の合成が可能な画期的な方法となった。さらに、創薬研究において不可欠な立体選択的合成への展開も併せて検討した結果、グルコース誘導体をリンカーとして用いる分子間不斉ビアリールカップリング反応を見出し、光学活性ビアリール化合物を効率良く得ることに成功した。 一方、最近、我々は低活性超原子価ヨウ素試薬がカチオン性界面活性剤cetyltrimethylammonium bromide(CTAB)により形成されるミセル反応場で顕著に活性化されることを報告したが、このCTAB逆相ミセルへの酒石酸誘導体の触媒量の添加によりスルフィド類からスルホキシド類への触媒的不斉酸化反応が比較的良好な光学収率で進行することを見出した。今後、これらの基盤技術を利用する創薬研究をさらに展開し、新規制癌剤、糖尿病薬ならびに抗アルツハイマー薬など種々の難病治療薬の開発研究を展開する予定である。
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