研究概要 |
システインプロテアーゼは生理活性タンパク質やペプチドが機能を発現する際に必須の酵素であり、正常に作用しない場合には多くの疾病を惹起する。従って個々のプロテアーゼに対する特異的阻害剤の合成開発は、それらが分担している生理活性機序の解明や新規な医薬品の開発に寄与するものである。我々は先ず共役アレニルカルボニル化合物がSH基と化学選択的にマイケル型付加反応することに着目し、生体内で目的とする酵素阻害活性本体が生成する前駆体の分子設計と反応カスケードを設定した。前駆体としてジエチルα-アシルアミノ-α-アルキニルマロネート体をデザイン合成し、エステラーゼ酵素加水分解、アルカリ性緩衝液やアルカリ性含水エタノール中での生体模倣反応に付したところ期待通りのカスケード反応(加水分解・脱炭酸・共役アレニルエステル形成)が進行することが確認された。合成化合物はカテプシンBに対して弱いながら酵素阻害活性を示したがキモトリプシンのごときセリンプロテアーゼに対しては阻害活性を示さなかった。またSH化合物、OH化合物、NH_2化合物が混在する含水エタノール中での生体モデル実験ではSH化合物のみと化学選択的に反応することが明らかにされた。本反応カスケードを活用し合成開発したL-lle-L-ProOHを有する新規な5S-OH-3-ピロリン-2-オン誘導体は、カテ-クロルフェニル基を有する2S,3S-エポキシコハク酸L-lleピペラジン誘導体はμ-カルパインに対して強力な阻害活性を示し、カテプシンBに対する酵素阻害活性より40倍強い値を示した。別途の分子設計に従って合成した新規なビフェニル-L-Val-アミノアルデヒド体のカテプシンB、L、K、Sならびにμ-カルパインに対する酵素阻害実験を試みたところ全ての合成化合物は実験を試みた全システインプロテアーゼに対して強力な阻害活性を示した。なかでもL-シクロヘキシルアラニンアルデヒド体は、若干ながらカテプシンKに対してより強い阻害活性を示すことから特異的阻害剤開発へ向けてのリード化合物として注目している。
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