研究概要 |
没食子酸は天然由来の植物フェノールであり、その構造に3つのフェノール性水酸基と一つのカルボキシル基を持つが、これまでにフェノール性水酸基のいずれかがメチル化されたり、カルボキシル基がエステル化されたりすると細胞致死活性が顕著に減少することがわかっている。そこで、今回、7種類の没食子酸誘導体を作成し、その細胞致死活性と機序に関して検討した。それらの中で、3,4-methylenedioxyphenyl-3,4,5- trihydroxybenzoate(GD-1)とS-(3,4-methylenedioxyphenyl)-3,4,5-trihydroxybenzoate(GD-3)がHL-60RG,dRLh-84,HeLa,S-180細胞に対して没食子酸より強力な癌細胞致死活性を示した。ただし、HeLa細胞に対しては、そのIC_<50>値が530倍他の癌細胞より大きかった。さらに、GD-1とGD-3は肝実質細胞、表皮角化細胞に対しては弱い活性しか示さなかった。次に、細胞致死活性の機序を探ったところ、GD-1とGD-3の細胞致死活性は、没食子酸の示す細胞致死活性の機序とは異なり、細胞内カルシウムキレーター、カルモジュリン阻害剤、エンドヌクレアーゼ阻害剤などカルシウムが関与する酵素の阻害剤で抑制されたが、抗酸化剤、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼなどによっては阻害されなかった。すなわち、没食子酸のエステル化により、没食子酸とは異なった作用機序を有する強力な誘導体が得られた。 次に、没食子酸の細胞致死活性の作用機序を検討したところ、没食子酸処理をしたHL-60RGにいくつかの新規タンパク質を見いだした。それらの発現は、カスペースの阻害剤の処理で抑制されなかったので、タンパク質の分解産物ではなく、新規合成されたものと考えられた。それらをマイクロシークエンスし、ホモロジー検索をしたところ、ヒストンH3とペプチジルプロピルシストランスイソメラーゼであった。現在、これらのタンパク質が細胞死にどのように関与しているかを検討している。
|