現在までにクローニングされている2種のホスホリパーゼD(PLD)アイソザイム(PLD1とPLD2)のうちPLD2を誘導発現させたクロム親和性細胞腫PC12細胞においては、上皮増殖因子(NGF)刺激により形成される神経突起が非常に顕著に進展した。一方、活性欠失型PLD2を誘導発現させると、NGFによる神経突起の形成は有意に阻害された。また、PLD2による加水分解反応を抑制する1-butanolもNGFによる神経突起の形成を阻害した。これらの結果から、PLD2はその反応産物のホスファチジン酸を介して神経突起の形成に重要な役割を果たしているものと結論づけられる。 PC12細胞において、NGFによる神経突起形成にはERKやP38のMAPキナーゼが重要であることが明らかにされている。そこで、NGFによる神経突起形成において、これらのMAPキナーゼカスケードとPLD2を介するシグナル伝達経路との関係を解析すると、PLD2はこれらのMAPキナーゼの下流因子として機能していることが明らかとなった。しかしながら、これらのMAPキナーゼが直接的あるいは間接的にPLD2を活性化している化については不明であり、今後はこの点を解析していく予定である。 一方、PLD1の生理機能を推察するために、PC12細胞に誘導発現したPLD1の細胞内局在を解析した結果、発現したPLD1はおもにリソゾームに局在した。この結果から、PLD1はリソゾームの放出反応に関与している可能性が考えられる。この点の詳細についても、今後解析していく予定である。
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