新規な細胞内シグナル伝達酵素として注目を集めているほ乳類ホスホリパーゼD(PLD)については、現在までにPLD1とPLD2の二種類のアイソザイムが同定されており、これらの活性調節機構や生理機能の解明が待たれている。申請者は、PLD1の機能調節ドメインを解析すること、およびPLD2の活性調節機構と生理機能を解明することをおもな目的として本研究を計画し、以下に示した成果を得た。 (1)PLD1のRhoAに対する結合部位の同定:PLD1aは1074アミノ酸残基からなるが、酵母Two-hybrid systemとin vitro相互作用システムを用いて、そのC末端側712-1074アミノ酸領域がRhoAと相互作用部位であることを同定した。 (2)PLDの下流因子の探索:PLD2によって産生されるホスファチジン酸が低分子量Gタンパク質のARFと相乗的にホスファチジルイノシトール4-リン酸5-キナーゼを活性化することを明らかにした。また、プロテインキナーゼC(PKC)、とくにPKCεがPLDの下流シグナル分子として機能している可能性を示した。 (3)PLD2の生理機能の解析:PLD2は、EGFによるラッフル膜形成に関与していることを示した。また、本酵素は、小脳顆粒神経細胞において、神経接着因子のL1刺激による軸索伸展に重要な役割を果たしていることを明らかにした。 (4)PLD2の活性制御機構の解析:PLD2は、NGF刺激によるPC12細胞の突起伸長シグナル伝達およびL1刺激による小脳顆粒神経細胞の軸索伸展シグナル伝達において、それぞれERKとp38MAPキナーゼ系およびERK経路により活性化されることを明らかにした。
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