プロスタグランジンE(PGE)受容体、EP3サブタイプは中枢神経系での主要なPG受容体である。我々は、このEP3受容体の神経細胞における機能を明らかにするため、神経細胞内における情報伝達機構を調べた。EP3受容体は、神経突起の退縮と成長円推の消失を引き起こす。この神経細胞の形態変化作用は、EP3受容体がRhoを活性化し、その下流のRhoのエフェクターであるRhoキナーゼを介して引き起こすことがわかった。このEP3受容体からRho活性化につながる三量体G蛋白質の種類を同定するため、様々な三量体G蛋白質のαサブユニットの活性化体の神経突起退縮作用を調べた結果、G12、G13、GqがRho-Rhoキナーゼを介して神経突起を退縮させることがわかった。更に、これらの中でEP3受容体がどのG蛋白質に共役するかを調べた結果、EP3受容体はG13に特異的に共役し、Rho-Rhoキナーゼを活性化して神経突起を退縮させることがわかった。このことから、EP3受容体は従来Giに共役し、アデニル酸シクラーゼを抑制することにより様々な生理作用を発揮すると考えられていたが、神経系においては、G13-Rho-Rhoキナーゼという新規の情報伝達系を介して神経作用を示すことが考えられる。さて、中枢神経系におけるEP3受容体の作用として神経伝達物質の遊離抑制はよく知られている。そこで、この作用におけるEP3受容体の情報伝達系を調べた。その結果、G12ファミリーのG蛋白質やRhoはRhoキナーゼを介して神経伝達物質の遊離を抑制し、EP3受容体もRhoキナーゼ依存的に抑制作用を示した。これらのことから、EP3受容体はG13-Rho-Rhoキナーゼの経路を介して神経伝達物質の遊離を抑制しているものと考えられる。こうしたことから、EP3受容体は中枢において、G13-Rho-Rhoキナーゼ経路によりアクトミオシンを介した細胞骨格の制御を通して神経細胞の形態調節やシナプスでの神経伝達効率を調節していることが考えられる。
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