中枢神経におけるCa^<2+>シグナルは、非常に短期な伝達から、長期にわたるものまで様々であり、作用メカニズムも複雑である。一方、カルモデュリンキナーゼは中枢神経におけるCa^<2+>シグナル伝達に中心的な役割を果たしていると考えられている。特に、CaM kinase IIは現在知られているプロテインキナーゼの中で最も多量に存在する重要な酵素であり、中枢神経機能の制御を解明する上で極めて重要であると考えられる。本研究では、CaM kinase IIを中心として以下の研究を行なった。(1)シナプス活動と可塑性の制御に関して、シナプス後肥厚(PSD)におけるCaM kinase IIの多くの基質タンパク質を解析した。すなわち、PSDタンパク質を二次元電気泳動により分離し、基質となるタンパク質をゲルから抽出しそれぞれのアミノ酸配列を決定し同定した。また、イムノブロット法によっても解析し、約15種類の基質タンパク質を電気泳動のスポットとして同定した。(2)PSDにおけるCaM kinase IIの結合タンパク質を二次元電気泳動によるゲルオーバーレイ法で解析し、グルタミン酸受容体が同定された。さらに別の結合タンパク質が存在することを見い出した。(3)神経突起形成と細胞骨格機能調節を解析し、CaM kinase II過剰発現細胞では、神経突起形成にCaM kinase IIのCa^<2+>非依存性の活性が重要であることを明かにした。(4)胚性がん細胞由来のP19細胞を用いて、神経分化にともないCaM kinase IIのが約10倍誘導されると同時に、アイソフォームの発現が変化することを明かにした。(5)中枢神経系の細胞であるCAD細胞も神経分化にともない、CaM kinase IIが誘導され、スプライシングが変化することが明らかとなった。(6)アイソフォームの発現様式により神経細胞が、成熟した中枢神経型、未熟な中枢神経型、未分化神経芽細胞型に分類されることが明らかとなった。
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