本研究では、in vivo遺伝子治療の基盤となるDNAプラスミドの体内動態と遺伝子発現の関係について、申請者らが既に基本技術を確立している送達機構および送達点(細胞、細胞内器官)が異なる3種類の肝臓ターゲティング法をプロトタイプに実証的検討を行い、生理学的モデル解析で得られる全身動態パラメータとレポーター遺伝子発現の定量的相関関係を明らかにする。また、得られた情報に基づき、遺伝子の総合的な動態制御を可能とする高分子及び脂質キャリヤー分子の合理的設計理論を構築し、肝疾患を始めとする各種疾患に対する遺伝子治療の基盤確立を図る。本年度はラット灌流肝を用い、構造と機能を維持した肝臓局所における取り込み機構に関して大型計算機によるRunge-Kutta-Gill法を組み込んだ非線形最小二乗法プログラムMULTI(RUNGE)を利用して生理学的モデルに基づく速度論解析を行った。その結果、肝臓へのターゲティングを困難にする要因として、血管内皮の透過性が制限されることが見出された。さらに、遺伝子の細胞内動態を制御するために、ポリアミノ酸に糖鎖に加え膜融合ペプチドを導入した多機能性遺伝子キャリアーを開発した。このキャリアーは、非常に小さな複合体を形成するとともに、低pH条件下で膜融合を有するので、エンドソームから容易に放出されるという特徴を有した。この結果として、これまでのキャリアーと比べより肝臓選択的でかつ極めて高い遺伝子発現が得られた。このように遺伝子の総合的な動態制御を可能とするキャリアーを合理的に設計できることが実証され、肝疾患を始めとする疾患に対する遺伝子治療の基盤が確立された。
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