最近、遺伝子の転写調節にDNA塩基対のゆるみ、DNAの部分的な折れ曲がり、そしてDNAの湾曲が重要な役割をはたしていることが判ってきた。中でもDNAの湾曲化は最も注目を集めているものの一つである。そこで、新規マルチ亜鉛フィンガー型アーキテクチャーが引き起こすDNAの局所的構造変化の中で湾曲化に焦点を当て、次のような実験を行なった。(1)DNAの湾曲の位置と程度を特定するため、GCボックスの相対位置を変えた同じ長さのDNAフラグメントを調整 し、ゲルシフト法によりDNA蛋白質複合体の移動度の違いを解析した。(2)マルチ亜鉛フィンガー蛋白質のどの部分がDNAの湾曲を誘起するのかを明らかにするため、リンカーの長さを改変し、ゲルシフト法、フットプリント法、干渉法などを利用して、改変前後の変化について検討した。その結果、三つの亜鉛フィンガーを有する転写因子Sp1のDNA結合領域を一つの結果単位としたとき、隣接しない二つの結合サイトの両側に1分子で結合するためには、リンカーの長さに下限があることが示唆された。標的サイトへの親和性、亜鉛フィンガーモチーフのDNA結合時のオリエンテーションがその限界に大きく影響している可能性がある。一方、隣接しない二つの結合サイトの両側に1分子で結合できる場合、二つの結合サイト間に方向性の変化を引き起こすことによって、結合を安定化していると考えられる。その変化の大きさはリンカーが短いほど大きく、DNA構造をよりrigidにしていることが示唆された。
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