研究概要 |
申請者らは,がん細胞で営まれているエネルギー代謝系のキャラクタリゼーションと,これをターゲットとした抗がん剤の開発研究に従事している.これまでの研究で,がん細胞ではII型ヘキソキナーゼと,1型グルコース輸送担体が,その特徴的な糖代謝系の構築に寄与していることを見いだしてきた. 本研究では,糖代謝を司るこれら2つの遺伝子の協調的発現の普遍性について,1)正常細胞をウイルスで形質転換した場合,2)正常細胞を血清刺激した場合および3)がん細胞の培養条件を変化させた場合の3通りの場合に関して,検討を加えた. その結果,正常細胞をがん化させた場合には,1型グルコース輸送担体の転写が亢進する場合と,しない場合とがあることが報告されていたが,1型グルコース輸送担体の転写が亢進する場合には,必ず,II型ヘキソキナーゼの転写も亢進していることが明らかになった.また,正常細胞を血清で刺激した場合には,II型ヘキソキナーゼと1型グルコース輸送担体の転写の協調的な亢進が観察され,他のヘキソキナーゼアイソザイムではこのような変化は観察されなかった.更に,がん細胞を,嫌気的条件に曝すと,発現していたII型ヘキソキナーゼと1型グルコース輸送担体の転写が,更に劇的な亢進を遂げることを見いだした.この場合にも,転写の亢進は,他のヘキソキナーゼでは観察されなかった.以上の結果から,II型ヘキソキナーゼと1型グルコース輸送担体は,細胞のがん化のシグナルおよびその悪性化のシグナルに呼応して,転写を亢進し,がん細胞に特徴的な糖代謝系を構築していることが結論された.
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