研究概要 |
本研究の計画を要約すると次の3点である. 1) in vivoにおいて,AGT(アンジオテンシノーゲン)遺伝子のalleleによるmRNA発現量の差を検討する. 2) AGTコピー数の異なる近位尿細管細胞株を樹立する. 3) AGTコピー数の異なるマウスにおいて,塩分摂取,ストレスなどの環境要因とAGTコピー数の違いによる遺伝要因との交互作用を検討する. このうち1)に関してこれまで,ヒト臓器として心臓および肝臓を検討した.心臓組織は冠動脈バイパス形成術時,得られる右心耳組織を,肝臓組織は肝臓疾患の肝生検時の検査済み検体の残りを使用した.検体からtotalRNAを抽出後,RT-PCR法によりM235T多型領域のDNA断片を得た.これを鋳型とし,塩基置換部分を境にして,コモンプライマーと長さの異なるallele特異的プライマーをTaq DNA ligaseを使って解析した.その結果,心臓組織64例のうち,M235T 多型のへテロは11例あり,それぞれの235T aneleと235Malleleの発現比を測定したところ,1.00〜1.23といずれの検体でも235T alleleの発現が多く,in vitroと同様の結果となった。このことは,235Tのalleleからの発現量が小児期から多いことが,中年期以降の本態性高血圧発症の危険要因となっているという仮説を支持するものである.肝臓組織に関しては10例の検体で解析したが,ヘテロは1例のみで,今後本態性高血圧の責任臓器であると思われる腎臓と共に症例数を増やして検討したい.2)に関しては,マウスの繁殖が順調にすすみ,細胞培養の設備も整ったことから,現在,基礎実験を行っている.3)に関しては,AGTコピー数が1,2,3,4のオスを数匹ずつ,塩分摂取の多いグループと通常食に分け,tail-cuff methodにより血圧のモニターを始めた.
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