全身性のアミロイドーシスの一種である家族性アミロイドポリニューロパシーは、常染色体優性遺伝病であり、全身の末梢神経及び自律神経異常を主徴とする疾患である。1993年にTerryらは、トランスサイレチンの立体構造から沈着メカニズムに関する仮説を提唱した。すなわち、30番目のバリンがメチオニンへ置換することにより、10番目のシステインが立体構造の外側に向け露出し、このシステインを介したS-S結合がトランスサイレチン分子間で生じることにより、アミロイドが形成されるのではないかとの仮説である。この仮説を検証するため、3つの導入遺伝子を準備した。第1は、10番目がシステイン、30番目がバリン(hCys10-Val30)で、正常の遺伝子である。第2は、10番目がシステイン、30番目がメチオニン(hCys10-Met30)でバリアントタイプである。第3は、10番目がセリン、30番目がメチオニン(hSer10-Met30)で、仮説を検証するための遺伝子である。これらを上流約6.5kbを含むプロモーターに接続し、それぞれ2ないしは3系統樹立した。これらのマウスで最高齢は現在24ヵ月齢で、それらも含めてアミロイド沈着を解析し、hCys10-Val30では沈着が見られず、hCys10-Met30では予想どおり沈着が見られ、hSer10-Met30では殆ど沈着しないことが明かとなった。以上の実験から、10番目のシステイン残基の重要性が示唆されたので、トランスサイレチン分子間の10番目のシステインによるS-S結合を阻害すれば、アミロイド沈着を防止できることになる。したがって、抗酸化剤(アスコルビン酸、還元型グルタチオン、システイン等)の投与により、アミロイド沈着が減少するかどうか検討中である。
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