研究概要 |
1.蚊刺によるアレルギー性の痒み:マウスに蚊(ヒトスジシマカ)の唾液腺の抽出物を単回注射しても注射部位をほとんど掻かないが,注射を繰返すと次第に掻き動作数が増加する。この増加の程度は,マスト細胞欠損マウス(WBB6F1-W/W^v)とその対照マウス(WBB6F1-+/+)とでほとんど差異が無かった。ICR系マウスが蚊刺を受けると径1mm程度の斑点状に血漿血管外漏出が観察される。予め唾液腺抽出物の反復注射を受けておいたICR系マウスが蚊刺を受けると,径10mm程度の明らかな血漿血管外漏出を生じ,terfenadine(30mg/kg)の前処置がこの血管外漏出をほぼ完全に抑制する。ところが,同用量のterfenadineは,感作されたマウスの蚊刺による掻き動作を抑制しなかった。感作マウスでは,蚊刺によりhistamineが放出されるが,このhistamineはマウスにそう痒反応を生じるほどの量ではないものと考えられる。感作マウスが蚊刺により示すそう痒反応には,マスト細胞-histamine以外の系が関与すると考えられるが,その機序は不明である。本モデルは,即時型アレルギーの痒みのモデルであり,この機序の解明に有用であろう。 2.NC系マウスの一次求心線維の痒み反応:NC系マウスの一次求心線維皮膚枝の発火頻度が,NC系マウスの掻き動作の頻度と正の相関を示した。NOS阻害薬L-NAMEがNC系マウスの慢性自発性そう痒反応と一次求心線維皮膚枝の発火頻度増加を抑制した。オピオイド拮抗薬naltrexoneは,NC系マウスの慢性自発性そう痒反応を抑制したが,一次求心線維皮膚枝の発火頻度を減少しなかった。 3.NC系マウス表皮ケラチノサイトの遺伝子発現:NC系マウスは,通常環境下での長期間飼育すると,多くは高頻度の自発的そう痒反応を示す(high responder)が,一部に顕著な掻き動作を示さないマウス(low responder)もいる。PCRベースのdifferential displayを用いてlow responderとhigh responderの表皮ケラチノサイトにおいて発現レベルが異なる遺伝子を調べ,9種類の遺伝子をクローニングした。これらが,NC系マウスの慢性自発的そう痒反応に関与するかどうかは,これからの研究が必要である。
|