本研究では、薬物や生理的物質の体内動態に関わるトランスポーターの同定・機能解析を目的とした。得られた第一の成果は、新規に遺伝子クローニングに成功したOCTNトランスポーターファミリーの薬物ならびに生理的基質としてのカルニチン輸送解析である。本研究では、特にヒト及びマウスOCTN2の遺伝子クローニングを行い、その組織分布性や機能特性から生理的役割として脂肪酸代謝に重要なカルニチントランスポーターであることを実証した。すなわち、カルニチン欠乏症状を示すjvsマウスならびに臨床医の協力を得て得られた患者におけるOCTN2遺伝子解析によって、OCTN2遺伝子変異が直接的にカルニチン欠乏症と関連していることを示すことに成功した。さらに、OCTNはカルニチンとともに有機カチオンも輸送することが示された。しかも、カルニチンはナトリウムイオン依存的に、有機カチオン輸送はナトリウムイオン非依存的に輸送する多機能的トランスポーターであることが示された。本研究成果は、全身性カルニチン欠乏症の原因遺伝子の同定という、生理的・医学的に極めて意義のある研究成果となった。特にカルニチン欠乏症は小児においては致死的あるため、その遺伝子診断など臨床的に極めて有用な情報を提供する基礎研究成果となった。その他には、血液脳関門で働くモノカルボン酸トランスポーターMCT1の機能発現の実証、元来リン酸トランスポーターとしてクローニングされたNpt1がアニオン性薬物を輸送しその腎・肝排泄に関わること、キノロン系抗菌薬の臓器移行・排泄にはMRP2やP-糖蛋白質を含む複数のトランスポーターが関与していること等の結果が得られた。これら薬物輸送に働くトランスポーターの同定、機能解析、発現部位の同定、および薬物速度論的なトランスポーターの役割の解析研究は、トランスポーターを利用した薬物動態制御法の可能性を強く示すものである。
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