研究概要 |
本研究は,脳神経細胞,グリア細胞,ならびに,内皮細胞で構成された脳内環境系でのグリア細胞の脳機能調節に着眼し,各種脳機能障害の条件下で脳保護に関わるグリア細胞の役割について神経科学的なアプローチを行なった.各実験で得られた成績を下記に要約する。(1)長期的アシドーシス下では,脳神経細胞の障害が生じるが,その際,主にグリア細胞からのフリーラジカルの一種である過酸化水素が発生する.このラジカルは過剰な細胞内Caイオンの増量を誘発し細胞死に繋がるが,一方ではグリア細胞からCaイオン依存性のIL-8を産生させる.グリア細胞内で産生されたIL-8は神経保護作用を有するものと思われる.(2)エンドトキシン(LPS)を使用しグリア細胞から放出されるサイトカイン類の相関性について探索を行なった.末梢組織での免疫系で認められるサイトカインの相関性は脳細胞系においては存在せず,これらは独立して作用していることが明らかとなった.脳機能疾患でのサイトカイン療法は,末梢系とは異なった考えで推進すべきことが示唆された.(3)LPS誘発の脳細胞死発現時におけるNOx産生の関連性と各種静脈麻酔薬の神経保護作用についてNOx産生抑制効果を基盤として検索した。LPS誘発のNOx産生は,細胞死が著明に認められる前のLPS処置後2時間以降で継続的,用量依存的,且つ,著明なCa^<2+>依存性増加がグリア細胞で認められた.さらに,静脈麻酔薬の中でもmidazolamはLPS誘発のNOx産生を用量依存的著明に阻害した. 以上の研究で得られた成績は,脳内環境系におけるグリア細胞の脳細胞障害発現時における機能的役割を,サイトカインを基盤とした免疫科学的ならびにNOx変動を基盤とした神経化学的研究から明らかにしたものである.すなわち,グリア細胞,殊にアストロサイト,は神経細胞機能を「脇役」として「支持」しているのではなく,むしろ,「主役」として「指示」していることが示唆された.
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