動脈硬化性病変を画像で捉えて評価する方法は臨床医学で応用されている。しかし生化学的に又は血中マーカーとして取り上げた成績は少ない。Hepatcyte Growth Factor(HGP)は血管内皮修復作用を有することから、血管内皮が障害される血管病変のマーカーになると考えられる。本研究では臨床検査的に、動脈硬化性病変をはじめ血管病変を来す各種疾患の血清HGF濃度を測定して血管病変のマーカーになるか否かにつき検討した。 高血圧症における重症度はHGF濃度とは相関しなかったが、眼底検査に基づく細動脈硬化病変とHGF濃度とは有意な相関を示し、病変の進行と共に血清HGF濃度は上昇した。粥状動脈硬化症は冠動脈疾患の心臓カテーテル検査時に検討し、粥状病変群と比べて血清HGF濃度は有意に高値を示した。全身的な細動脈硬化症は局所的粥状動脈硬化症を来す冠動脈疾患と比べて血清HGF濃度との相関が明白であった。全身的に炎症性血管病変を来すHenoch-Schonlein紫斑病の急性期では血清濃度が増量し、回復期に入ると共に低下することから、炎症性病変でも血清HGF濃度が増量する。 糖尿病では非糖尿病と比べて血清HGF濃度は低下した。一方、網膜の血管新生を来す増殖性糖尿病性網膜症では血清HGF濃度が有意に高値を示した。また網膜増殖性病変に対して光凝固療法を施行した患者は高値を示さなかった。眼硝子体内HGF濃度は増殖性網膜症で高値を示し、このHGF産生亢進が網膜血管新生や虚血病変をもたらすと考えられた。HGF産生亢進は網膜のグリア細胞であるミューラー細胞などであることが遺伝子発現の検討により示唆された。 以上より血管病変を来す疾患で血清HGF濃度上昇を来すことが明らかとなり、HGFが血管病変マーカーになるえる事を示した。今後の更なる検討が必要である。
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