血管内皮細胞が血栓形成に果たす役割は大きい。われわれは血管内皮細胞における線溶制御機構の調節や凝固活性の初期段階に重要な役割を果たす組織因子(TF)の動態に、サイトカインの向凝固活性をうち消す方向で制御している「血流」の役割が重要であることを明らかにしてきた。本年度は、凝固制御因子である組織因子経路抑制因子(Tissue factor pathway inhibitor:TFPI)に着目した。TFPIは、血管内皮細胞上に常時発現し、外因系凝固反応の組織因子による血液凝固開始反応を阻害する機能を有し、ヘパリン投与で血中に遊離して来る。ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)を培養し、炎症性サイトカインの一つである腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor:TNF)を負荷しても、内皮細胞上のTFPIの発現量にあまり変化は認められなかった。一方腫瘍促進因子であるPMA(phorbol myristate acetate)はウシの血管内皮細胞のTFPIの発現を増加させる因子として知られているが、HUVECではその発現を低下させた。発現量の変化の検討は、抗TFPI抗体を用いた免疫組織法にてHUVEC上の発現を、培養上清および細胞中のTFPI抗原量をEIA法で、HUVEC膜上の発現をレーザーフローサイトメトリーにて測定したが、いずれも同様の結果であった。さらにコーンプレート型回転粘度計を応用し、未刺激静止時およびPMA刺激後のHUVECに生体に近い動脈レベルの流動状態を負荷しTFPIの動態を検討した。動脈レベルの18dynes/cm^2のずり応力を負荷後64時間後抗原量を測定したところ、TFPIの発現量はわずかに抑制された。一方、PMAやTNFで刺激したHUVECでは、血流の存在下でもTFPIの発現量に変化は見られなかった。TFPIの発現様式は、従来検討した凝固線溶因子とは若干異なった。今後ヘパリンとの関係や抗凝固因子としての発現様式の更なる検討が必要と思われた。
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